Nyx Foundation、DEXにおける「見えざるマーケットメイキング」の不公平性を定量的に分析する研究論文を発表

投資

DEXにおける「見えざるマーケットメイキング」の実態

株式市場における高速取引(HFT)と同様に、DEXの領域でも情報の非対称性が生じています。投資家がDEXで取引注文を出すと、その注文はブロックチェーンに記録される前にmempoolと呼ばれる待合室に一時的に保管されます。このmempoolには、誰でも中を覗ける公開ルートと、特定の専門業者しかアクセスできないプライベートルートが存在します。

Public mempoolとPrivate mempoolの概念図

問題は、このプライベートルートを利用する業者(ブロック構築者)が、他の市場参加者よりも有利な条件で取引を執行できる可能性がある点です。これは市場の透明性や公平性の観点から長らく指摘されてきましたが、その実態はこれまで明らかにされていませんでした。

大規模データで“見えざる”取引を可視化

本研究では、DEXにおける代表的な取引手法の一つである「Just-in-Time(JIT)流動性提供」に着目しています。これは、ユーザーの取引注文の直前直後に割り込むようにして利ざやを稼ぐ超短期取引です。2024年1月から2025年9月にかけて、主要なDEXであるUniswap v3上で発生した約44.2万件のJIT取引データを収集し、分析を行いました。

Just-in-Time (JIT) 流動性を用いたスワップにおける価格と数量の関係

これらの取引が公開ルートとプライベートルートのどちらを経由したのかを特定し、それぞれのルートにおける市場参加者の構造、手数料水準、収益性の違いを定量的に比較しました。

分析で明らかになった3つの事実

今回の分析により、主に以下の3つの事実が明らかになりました。

  1. プライベート取引は一部のプレイヤーに独占されている: プライベートルートでは、ごく少数のプレイヤーとビルダー(ブロック構築者)に取引が集中している一方、公開ルートではより多くのプレイヤーが競争する構造が確認されました。これは、プライベートルートが一部の参加者にとって参入障壁の高い、閉鎖的な市場となっていることを示唆します。
  2. 手数料はプライベート取引の方が低い傾向: 分析した主要な取引ペアにおいて、プライベートルートを経由した取引は、公開ルートに比べてユーザーが支払う総手数料が小さい例が見られました。これは、プライベートルートの利用が、必ずしもユーザーにとって不利に働くわけではないことを示しています。
  3. 利益と手数料の連動性がルートによって異なる: 公開ルートでは、取引から得られる利益が大きくなるほど、ユーザーが支払う手数料も増加する強い相関関係が見られました。一方、プライベートルートではその連動性が弱く、特に価格への影響によって得られた利益に対する手数料の支払額が小さい傾向が報告されました。これは、プライベートルートでは、公開ルートに比べて利益が手数料に反映されにくい構造がある可能性を示唆します。

金融ビジネスへの示唆

本研究の結果は、特定の主体だけが利益の抽出機会にアクセスしうるDEXの現状を、実データを用いて初めて浮き彫りにした点で意義があります。この発見は、今後の金融ビジネスや規制のあり方を考える上で、以下の示唆を与えます。

  • DEX・プロトコル開発者: 取引ルートによる価値配分や競争環境の違いを考慮し、より透明性・公平性の高い市場設計を検討する材料となります。

  • 市場参加者(投資家・金融機関): 自身が利用する取引経路の特性を理解し、コスト構造や競争環境への影響を評価する一助となります。

  • 政策・規制当局: オンチェーン市場における注文フローの非対称性や市場の集中度といったテーマを議論する際の実証的な基盤となり得ます。

Nyx Foundationは、ブロックチェーン技術がもたらす新しい金融システムの透明性と健全な発展に貢献するための研究を継続しています。

Nyx Foundationについて

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一般社団法人 Nyx Foundation(所在地:東京都文京区)は、イーサリアム・ブロックチェーンに特化した私設の研究機関です。すべての活動資金は寄付・研究助成金・スポンサーシップによって支えられています。イーサリアムの重要課題を解決するための活動を継続し、イーサリアム財団やブロックチェーン企業・大学との連携を進め、コロンビア・ビジネススクール等で成果を発表しています。

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