ポストWeb3:神話から実存と統治の媒体へ、暗号・分散技術の新たな価値を提唱

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ポストWeb3の必要性と定義

従来のWeb3をめぐる議論は、自由、分散、個人主権といった理念、あるいは検閲耐性や改ざん耐性といった技術的特性が価値の中心として語られてきました。その結果、イデオロギーの過大評価や技術改善の自己目的化を招き、具体的な経済的・政治的価値が見えにくくなっています。さらに、その価値はしばしば投機的な利益への期待によって上書きされ、政治的利用という本来の論点は後景へ退きました。

これに対し、ポストWeb3という方法論が導入されます。ポストWeb3は、新たな技術潮流の名称ではありません。それは、暗号・分散技術をその理念や特性からではなく、既存制度との比較のなかで経済的・政治的価値から評価するための制度論的枠組みです。この枠組みでは、分散台帳単体ではなく、政治利用のために設計された技術の組み合わせの総体を「暗号制度技術」として分析対象とします。これは、従来は人間の判断・信頼・権威に依存していた制度の一部を、ソフトウェアによる検証・合意へと移し替えることで、擬似的な代替を可能にする技術を指します。

コードの「無精神」がもたらす政治的価値

暗号制度技術におけるコードは、法とは異なる原理を持つ制度的媒体であると論じられています。法が明文化されたルールだけでなく、政体・慣習・宗教・商業などとの関係の総体である「法の精神」との連動を前提とするのに対し、分散台帳では、取引や契約が人間による解釈や裁量ではなく、事前に定義された検証条件への適合として処理・執行されます。ここでは、正当化、解釈、責任帰属といった回路が制度の内部に十分には組み込まれていません。この意味で、コードによる制度は「法の精神」を十分には伴わない「無精神的」なものであると言えます。

この制度執行が人間的な解釈ではなく、検証条件への適合として処理される特性は、以下の政治的価値を生み出します。

  • 執行コストの削減

  • 恣意的裁量やレントの抑制

  • 退出可能性の増大

  • 越境環境での制度提供可能性

  • プライバシーや主体化の選択可能性

これらの価値は、国家による制度供給が不十分な領域での財産権や通貨制度の部分的提供、複数の国家が交差する越境領域や少額取引での低コストな制度利用、レント化した国家の収奪的制度に対する代替可能性と競争圧力の創出といった形で機能します。したがって、暗号制度技術の意義は、政治や法を全面的に不要にすることではなく、特定領域において制度依存を再編し、より健全な制度均衡を形成する条件を開く点にあります。

サイファーパンクの倫理と抵抗の媒体としてのコード

暗号制度技術の多くは、エリック・ヒューズやティモシー・メイらを初期の中心とするサイファーパンク・メーリングリストで議論・構想されました。「Cypherpunks write code」という倫理のもと、政治的要求は単なる主張ではなく、実際に作動する技術として提示されるべきものとされました。

この技術は、プライバシー保護と第三者への信頼の最小化という2つの背景から発展しました。インターネットの利用拡大に伴う通信の監視とプライバシー問題に対し、デヴィッド・チャウムは匿名通信の基盤としてMix Netを提案し、匿名的な取引システムを構想しました。また、ブレトンウッズ体制の崩壊による通貨体制の変化から、通貨発行や資産移転の権限を誰がどのように管理すべきかという問題が再燃し、ニック・スサボは制度管理者への依存を避けるため、予め規定された通信規則によって貨幣発行の振る舞いを拘束する技術による制度を構想しました。これらの実践が、Bitcoinに代表される分散的な貨幣制度へと接続されます。

暗号制度技術は、政府や特定の管理者への過剰な依存を問題化し、それを迂回する実践として設計・利用されてきました。匿名性や検閲耐性を備えた技術は、メッセージの秘匿によるプライバシー保護、個人情報を集中管理する権威の分散、恣意的な通貨管理の抑制といった政治的価値を担っています。これにより、コードは抵抗の媒体であると同時に自己統治の媒体としても位置づけられます。

統治合理性の転換と実存の再編

ミシェル・フーコーが示した統治合理性の歴史的転換、そしてジル・ドゥルーズが論じた管理社会への展開の中で、通信技術が統治そのものを再設計し、抵抗と自己統治を可能にする条件を開いたと考察されます。暗号制度技術は、管理社会の外部に突然出現した異物ではなく、統治の合理化の過程において同じ通信技術が統治そのものを再設計し、抵抗と自己統治を可能にする条件を開いた歴史的な転換点として理解されます。

この統治理性の転換と制度の再配置は、マルクスが問題化した生産手段の配分とは異なる「制度手段の配分」という問題へと接続されます。暗号制度技術は、判断・裁定・執行といった意思決定を実効化する「制度手段」を独占する特権主体が生む政治的支配と疎外を問題化し、この制度手段を分散化し、代替可能にし、部分的に共有可能にする点にその特異性があります。これにより、経済的収奪とは異なる仕方で作用する政治的支配と疎外を低減し、新たな実存の制度的媒体として機能する可能性を示唆します。

暗号制度技術の登場によって、抵抗は単なる批判の言葉ではなく、制度設計を通じて現実に接続しうるものとなりました。これは、革命が遠い未来の神話ではなく、実存と統治のあいだに持続的な差異を作り出していく制度的実践として理解される可能性を提示しています。

今後の展望

本稿で提示された議論は、理論的な整理にとどまる部分があり、今後はより具体的な事例へ接続しながら、実存と統治の媒体としての技術の研究開発を深める方針です。Bitcoinやそれに連なる技術群が切り開いた政治利用の可能性は、いまだ十分に掘り下げられていません。

株式会社インバースは、4月1日を夢を発信する「April Dream」に賛同し、本プレスリリースにてその夢を公開しています。

株式会社インバースについて

株式会社インバースは、「Beyond Bitcoin」をミッションに掲げ、暗号制度技術を活用した事業を展開しています。国内外の企業に自社サービスを提供しており、Web3財団からプライバシーとスケーリング分野の助成金を世界最多で獲得しています。また、Microsoft、Ethereum、Zcash、Polkadot、Astar等のオープンソースプロジェクトへの貢献、東京大学との共同研究による暗号理論の学術論文の発表実績があります。

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