AIエージェントが決済する時代が到来
GoogleのAgent Paymentsプロトコルに代表されるように、AIエージェントが人間に代わって、あるいはAIエージェント同士で自動的に決済を行う未来は不可避となっています。AIエージェントは日常の購買行動だけでなく、株式・通貨取引などの金融領域における意思決定と実行も担うことが想定されます。しかし、人間に紐づかない自律型AIエージェントは、クレジットカードのような「人間を前提とした決済手段」を保有できません。この制約を考慮すると、プログラムによる執行と検証が可能なブロックチェーン上の決済は、AIエージェントにとって重要な代替手段となるでしょう。これがAIエージェントが経済活動の主体となる「AIエージェント経済」の基盤です。
AIエージェント経済の主要課題と形式検証
AIエージェント経済が立ち上がる際には、主に二つの重要な課題が存在します。
第一に、システムのセキュリティです。現代社会でもセキュリティは主要な課題ですが、AIエージェントが自動制御され、取引や決済を機械的に実行する環境では、一層の堅牢性が求められます。人間の目では見過ごされる脆弱性をAIが探索・発見し悪用する可能性も否定できません。
第二に、AIエージェントの信頼性と透明性の確保です。自動制御されたAIエージェントの行動を人間が逐一追跡・監督することは現実的ではありません。そのため、エージェントがどのようなルールに従い、どの範囲で何を実行できるのかを「検証可能な形」で示す仕組みが必要です。この技術がなければ、AIエージェントの世界でも人間社会と同様に契約不履行や詐欺、意図しない逸脱行動が発生し得ます。
これら二つの課題に対する有力なアプローチが、LeanやCoqに代表される形式検証です。形式検証は、数学的な証明に基づいて仕様やプログラムの挙動を検証し、システムの正当性を厳密に担保する方法論です。例えば、AWSが開発したポリシー言語Cedarでは、Leanによる形式検証を通じてその信頼性を高める取り組みが行われています。形式検証は純粋数学や量子情報の分野でも活用が進み、ケプラー予想の証明の形式化やLiquid Tensor Experimentなど、学術的にも大規模な成果が報告されています。
形式検証を導入することで、システムの数理的性質を含む仕様の整合性や、AIエージェントが生成したプロトコル設計・実装の健全性を、検証可能な形で担保することが可能になります。
AIによる検証プロセスの自動化
AIエージェント経済において特に重要となるのは、この検証プロセス自体をAIによって自動化し、スケールさせることです。AIエージェントは今後、ほぼ無数に立ち上がることが見込まれます。一方で、形式検証は人手で行う場合に膨大な工数を要し、例えばLiquid Tensor Experimentでは証明の最後の5行だけで6万行のコードを要し、ケプラー予想の形式化には10年という膨大な時間がかかっています。このような背景から、検証を人手のみに依存するアプローチでは、将来の規模に対応することは困難です。
この課題に対し、三内氏が発表した「prover agent」は、数学の定理証明とその形式化を自動化することに成功しています。本技術は、数学オリンピックで金メダリストを取れるほどの性能を持ち、そのレベルの問題であれば一問あたり数十分程度で証明とその形式化を完成させることができます。これは形式検証をスケールさせるための基盤技術となる可能性を秘めています。
Nyx Foundationは、AIエージェントが決済する時代に向けて、こうした技術をさらに発展・応用し、暗号分野における数理の形式検証、ブロックチェーンシステムの検証、AIエージェントの信頼性検証を自動で実行可能な、スケーラブルな検証AIエージェントの開発を推進します。
京都大学 特定准教授 三内顕義氏 略歴
東京大学大学院数理科学研究科で博士号を取得後、京都大学数理解析研究所特任助教、理化学研究所AIPセンター研究員/上級研究員を経て、現在は京都大学理学部学習物理学講座特定准教授、および国立情報学研究所LLMセンター客員准教授を務めています。
Nyx Foundationについて

一般社団法人Nyx Foundation(所在地:東京都文京区)は、イーサリアム・ブロックチェーンに特化した私設の研究機関です。すべての活動資金は寄付・研究助成金・スポンサーシップによって支えられています。そのような資金を原資に、イーサリアムの重要課題を解決するための活動を継続してきました。既にイーサリアム財団やブロックチェーン企業・大学との連携を進め、コロンビア・ビジネススクール等で成果を発表しています。

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